坂東十六番 千手観音坐像(せんじゅかんのんざぞう)

棒道の石仏-地元の人々が地域や旅人の安寧を祈って建立した小さな観音霊場

江戸時代末期に、棒道を行く旅人や商人の道標として安置された石仏群の一つ。
西国三十三所・坂東三十三所になぞらえた観音像であり、現在も39体残されています。江戸時代に全国で流行した、観音霊場を模したもの(写し霊場)で、巡拝すると札所巡りと同等の功徳が積めると考えられています。
この石仏と対応する札所は五徳山水澤寺(群馬県)で、本尊は棒道と同様に千手観音です。

表面が白っぽくなっているのは、地衣類(菌類と藻類の複合体)が付いているためです。

本来、棒道の石仏は秩父三十四箇所・坂東三十三箇所・西国三十三箇所合わせて百体作る予定だったようですが、この坂東十六番で途切れています。ここは旧小淵沢村、小荒間村の境目にあたるようです。

千手観音は正式には千手千眼観世音菩薩(せんじゅせんげんかんぜおんぼさつ)といい、観音菩薩があまねくすべての衆生を救うため、それぞれの掌に目のついた千本の手を得た姿です。仏像として表される際には手の本数を省略して表現することが多く、棒道の石仏も例外ではありません。

顔の表現に力を入れるためか、頭が大きめなのが棒道の石仏の特徴。また、細かい加工がしやすく黒っぽい石である安山岩や玄武岩といった、八ヶ岳の火成岩を用いて作られています。光背(仏像の後ろに付ける、仏身から放たれる光を象った装飾)の形も、自然な石の形をそのまま見立てたもの、石に彫り込んだものなど様々です。一つ一つの表情、造形、石材の様子、ノミ跡といった細部を見比べながら歩くとより楽しめます。
時には花や食物が供えられており、地域で大切にされていることが伺えます。
もっと知りたい
・送り犬の伝説:昔、棒道は中馬追い(ちゅうまおい、馬を使った荷運びをする職業)がよく利用していました。夜に棒道を歩くと山犬がついてきて、人が転ぶと噛み付くのですが、「一休みですよ」と声をかけると噛みつかれず、火を見せると逃げる。村の近くまで来たら、「ご苦労様でした」と声をかけると、いつとなく離れていく、といわれています。また、ある人が送り犬の口に刺さった骨を抜いてやると、オオカミの大群に遭わないよう袂の端を引いてくれたといいます。かつて棒道を歩いた人々の様子が分かる伝承です。
・ほろよい小道:ここからしばらく南東に向かって歩いていくと、道の分岐が現れます。右に折れる道は、「ほろよい小道」と呼ばれます。かつてゴルフ場の隣にウイスキーの熟成用保存庫があったため、この道を歩く人はその香りでほろよいになったといいます。
・「おんだし」の痕跡:八ヶ岳の麓では「おんだし」と呼ばれる山津波(土石流)がよく起きていました。棒道の周辺にごろごろと転がる大岩はその痕跡です。

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